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第十七回(公財)国際宗教研究所賞・奨励賞

【研究所賞】

 該当作なし

【奨励賞】

 授賞業績

 宮澤 安紀『日英の自然葬法に関する宗教社会学的比較研究』(博士論文、2021年1月6日受理/筑波大学) 

 授賞理由

 本論文は、日本とイギリスにおいて近年普及しつつある「自然葬法」(本来的には自然環境に配慮した葬法)の登場と普及に着目し、新たな葬法が人々のどのような考え方感じ方を反映しているかを比較検討し、現代における葬送文化と人々の意識変容を宗教社会学的に分析したものである

 まず、序章において、現代日本の葬送、イギリスと日本における自然葬法(前者は「自然埋葬(natural burial)」、後者は「樹木葬」)に関する先行研究を検討し、それぞれの国内の文脈においてのみ論じられ、国際的比較による特徴の把握には至っていないこと、個人の死生観を支える共同体への視点が欠落しているという問題点があることが指摘され、両国において「自然葬法」が登場した歴史的・文化的・社会的文脈の差異を踏まえて現代の状況を把握することの意義が提示されている

 第一部では、イギリスにおける伝統的葬送の近代的葬送への再編が進み、とりわけ戦後、合理的・世俗的葬法としての近代型火葬が急速に普及したことで、生と死の分断と死者の日常空間からの隔離が進んだことが捉えられる。そして、20世紀の終わり頃から当事者たちの選択の自由が主張され始め、その流れの中で「自然埋葬」が成立していったこと、これが葬送に限定されず、看取りや死別など死の領域全般における近代からポストモダンへの転換の一部として捉えられるとする。そして、自然埋葬を選ぶ人の意識調査によって、「脱伝統」を動機としつつも、必ずしもエコロジカルな世界観に収斂するものではなく、各自の多様な死の物語が紡がれ、共同体による承認が欠けているにもかかわらず、「正しさ」の感覚の承認がこれを支えていると論じられる

 第二部では、日本における近代型火葬の発展、宗派不問の共葬墓地の成立などを通して脱宗教化が進んだ過程を論じ、イギリスと異なり近代化によって生者と死者が分断されるのではなく、先祖祭祀の制度化によってかえってそのつながりが強化されたことを示している。ところが、20世紀終盤になるとその基盤をなしていた「家」組織が後退し、従来型の葬送様式の正当性が疑問視されるようになり、「樹木葬」などの新たな葬送様式が登場したとする。そして、「樹木葬」を選択する人々への意識調査を通して、墓参と先祖祭祀の「脱継承」傾向、「自然に還る」とする「自然志向」傾向を示しているものの、本人の自己決定を通して新しい共同性への志向を示しており、これが個人の死の物語の安定した内面化において重要な役割を果たしていると分析されている。

 終章では、以上の議論をまとめ、イギリス、日本ともに自然葬法の登場・普及は近代に確立された葬送に対する批判的反省に基づき、当事者の自由な選択を尊重することから発展してきたが、それをそれぞれの近代化と宗教文化のあり方の相違を反映するとともに、共同性のあり方に大きな違いがあることが示されている。

 日英の比較により、それぞれの現代葬送文化と死生観の変容の特徴とその背景が、わかりやすく説明されており、現代的な葬送様式と死生観の比較研究として独自性の高い業績である。ただ、選ばれた事例が特殊なものであることを踏まえ、両国のより一般的な傾向との関わりを明らかにするところまでは及んでおらず、今後の研究に期待されるところも大きい。とはいえ、両国でのフィールドワークにより新たに得られた調査資料によって、丁寧な分析を加えており、国際的でかつ実証的な宗教社会学的研究としての新しさを十分に備えている。よって2021年度の国際宗教研究所賞奨励賞にふさわしい業績と判断する

(2022年2月19日 (公財)国際宗教研究所賞選考委員会)

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